【導入事例】ハイブリッドスーパーキャパシタのブースト力を活かした燃料電池レーシングカー「Forze Hydrogen Racing(オランダ)」
自己紹介及び、貴社の簡単な説明をお願いします。
フォーゼ・ハイドロ・レーシング(Forze Hydrogen Racing)のチーフ・メカニカル・エンジニアの、サイモン・アンドレアスです。
写真:サイモン・アンドレアス
Forze(注)はオランダのデルフト工科大学出身者で構成され、世界初のフルサイズ水素燃料電池によるレーシングカーを製造しました。我々は、水素が将来の有力なクリーンパワーソリューションであることを世界に示すため、水素を使った燃料電池自動車(レーシングカー)を製造しています。
編集注)Forzeは、2007年にDelft工科大学で創立された燃料電池よるレーシングカーに特化した学生チーム。既に8台の燃料電池レーシングカーを製造しており、世界ではじめて内燃機関レーシングカーと公式レースで競争をしたことで知られる。
今年は、私自身が次モデルForze IXの次世代蓄電デバイス「バッファ(Buffer)」を設計しています。バッファとは、回生ブレーキ中に電気エネルギーを蓄え、加速中に電気モーターに高いブーストパワーを提供するレーシングカーに搭載する大型の「バッテリー」のことです。当社のバッファは、武蔵エネルギーソリューションのハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術を使っています。
貴社(チーム)の新製品「Forze IX」について詳しく教えてください。
「Forze IX」は、次世代の画期的な燃料電池自動車(レーシングカー)で、我々はこの車体を使って、GTクラスでの勝利を目指し、更にステップアップしていきたいです。私たちはGTクラスで水素の力を実証できることを非常に嬉しく思っています。
Forze IXは2つの燃料電池システムを搭載し、合計240kWの電力を作り出します。蓄電システム「バッファ」内に使われているハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)のセルは、四輪駆動車へさらに500kWのブーストパワーを提供します。その結果、Forze IXは3.5秒以に時速100キロに到達し、最高時速270キロを達成します。
ハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術に、切り替えた主な理由は何ですか?あなたが直面してきた最大の課題は何でしたか?
Forzeは長年、武蔵エナジーソリューションズのハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術を使用してます。次のモデルでは、新しいCPQ3300SDのセルを使用できることを楽しみにしています。
写真:Forzeのサイモン(左)とマックス(右)
Forze は、次世代電池「バッファ」のコア要素の一つとしてハイブリッドスーパーキャパシタ技術を活用しています。HSCは、エネルギーの貯蔵が主要な用途ではなく (貯蔵の役割は水素タンクが担います)、最小限の熱損失で何百Aと数百Kwの電力を供給するパワー供給源として活用されています。これにより、水素電気レースカーの持つ、主要な問題2つが解決されます。
燃料電池のスペックを超えた大きなパワー
1つ目は燃料電池の通常スペックをはるかに超えたパワーをレースカーに提供できる点です。
水素から発電することは化学的プロセスであるため、発電に相対的に時間がかかります。一方、レースカーは瞬時に大きなピークパワーを必要とします。HSCは特性上、エネルギーの一部を貯蔵しつつも、必要に応じてレース1周あたり複数回、途方もない電力でそれを解放することができるのです。
この結果、私たちがレースで使うことのできるパワーは通常の燃料電池の仕様よりもはるかに高いのです。
写真:燃料電池レーシングカーのコクピット
水素貯蔵の課題を解決する回生エネルギーの活用技術
第2の課題は水素エネルギーの貯蔵です。
現在の技術(すなわち気体水素)の状態では、水素を輸送するタンクの容積と重量は大きな設計課題です。 したがって、パフォーマンスを維持しながら、エネルギー消費を最小限に抑えることがとても重要です。このエネルギーの大部分はブレーキングで失われるので、できるだけ多くのエネルギーを回収、再活用したいと考えています。しかし、このブレーキで発生する電力は、一度に数秒間、メガワット単位と大きなものになります。したがって回生エネルギーとして活用するためには大電力のバッファが必要です。
エネルギー消費効率の向上により、タンク重量を軽量小型化し、より高速で高性能なレーシングカーになるわけです。
蓄電システム「バッファ」の鍵は電力密度です。理想的なバッファに必要なエネルギー貯蔵は数メガジュール程度ですが、数千アンペアの電力を供給できる能力が必要です。これらすべての要求水準を満たしながら、できるだけ軽く小さくし、熱損失を最低限に抑えながら実現できるのがHSC技術というわけなのです 。
他のソリューションではなくHSC技術を選択する決定的な要因は何でしたか?
現状のハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術の中で、前述した主要要件に対するベストバランスを提供しているものが、武蔵エナジーソリューションズのセルでした。
また、電気的特性とは別に、角型セルであったことも主な利点です。長方形形状は、従来の形状のHSCと比べてはるかに効率的なパッキングが可能でした。
ハイブリッドスーパーキャパシタ技術を採用すべきもう一つの重要な理由は、競合する他の技術と比較してはるかに安全であるということです。LICは火災を引き起こす傾向が非常に低く、これは特にレースや、教育(学生)の環境では、これは決定的な論点になります。
写真:タイヤをチューニングするサイモン
ハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術を選択したときの貴社の社内の反応はいかがでしたか?
Forzeは長年武蔵エナジーソリューションズのハイブリッドスーパーキャパシタ(HSC)技術を使用してきたので、Forze IX用の新しいCPQ3300SDセルを採用することは、チームにとって賢明な選択でした。
HSC技術の導入の際の最大の課題は何でしたか?
導入時の主な課題は、私たちの場合は、冷却でした。
武蔵のHSCプロダクトは非常に堅牢で、非常に低いESRを特徴とすることが証明されていますが、私たちの車体の限られた空間の中でどうやって効率的に十分な冷却液を通すことが大きな課題でした。
なお、現在開発中の新モデルでは、セル間に冷却システムの実装を検討しています。これまでのForze車両と比較しても、HSCがもつポテンシャルをさら引き出せるはずです。
HSCテクノロジーソリューションを導入した後、武蔵エナジーソリューションズからどのようなサポートを受けましたか?
武蔵ソリューションズから受けたサポートには、非常に満足しています。私たちの技術的な質問に対して、データを使って丁寧に返答してくれるなど、非常に協力的なサポートでした。また、常にForzeの技術計画の進捗を考慮してくれました。
関連リンク:Forze Hydrogen Racing
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